父の熱愛と破局、そして。
年が明けてからの一週間で、実家のテレビが映らなくなり、水道管が三日連続で凍結し、それをいいことに風呂嫌いの父が風呂場の水道の元栓を閉め、高らかに「脱・風呂宣言」をしました。
ピンチをチャンスに変える男、父。
体はこまめに拭いているみたいだし、帰省の度に父の体臭チェックをするけれど、今のところ臭ったことはないから、まあ良いのだけれど。
ヒートショックも怖いし。
水道管は、業者さんを呼んで解氷をしてもらったが、恐らくまた近い内に凍るだろう。 去年一昨年も凍ったが、シーズン内に一、二度程度だった。父と共に家も着実に老化している。
しかしながら、帰省はまだしばらく先になるし、実家から遙か遠い場所で気を揉んでも仕方がないので、よぼよぼの水道管が春まで持ち堪えてくれるのを祈るしかない。
問題は、テレビの方だ。
実は前回の帰省時から、テレビの調子は悪かった。
アンテナ不良のようで地上波は全滅、BSのみ映る状態だったのだが、電器屋さんに電話したら、雪深い冬の時期は修理が難しいと断られてしまった。
BSだけでも映るだけましかと思っていたのに、我が家の「世界の亀山モデル」シール貼りっぱなしの十五年選手は、ついに何も映さぬ沈黙のでかい板となってしまった。
家から出ない一人暮らしの父とテレビは、毎日が蜜月べったりべたべたの関係だ。
ヘルパーさんは来て下さるが、それも一日の内の少しの時間でしかないし、誰もいない家の中、父は一日中つけているテレビと会話する。
私が帰省している間も、芸人さん達の計算されたボケ行動などを真に受けては、「何はんかくさいことしてんのさ~」と、知った顔で良く突っ込んでいる。 妙に上から目線な突っ込みに、横でイラッとすることもあるが、にこにこと楽しそうな父を見られるのは嬉しい。
ひとりきりの空間で、音や映像といった刺激と共に父を外の世界と繋げてくれるのは、基本テレビだけだ。
文章なら何でも好きで、新聞も隅々まで読むが、新聞は、情報は得られても音も出ないし動かない。
そんな父の世界から、愛しのテレビが去ってしまった。
あかん。
静かな家の中、朝起きてから寝るまでの長い時間を、ただひたすらソファで寝っ転がりながらやり過ごす父を想像してみた。
あかんぎる。
わびしすぎて、胃が痛い。認知症的にも、どう考えても不安要素しかない。
何とか今時期でもアンテナ修理してくれるお店はないか、近くの電器店を調べまくりながら、ひとまずの対処策として、速攻書店で書籍雑誌を買い求め自宅に送った。
毎日朝晩の電話の中で、私が最初に必ず聞くのは「今何してましたか?」なのだが、荷物が実家に届くまでの数日間、返答がお決まりの「寝っ転がってテレビ見てた~」ではないことが、つらかった。
そしてついに、荷物が届く日。
宅急便の追跡サービスで着荷を確認し、受け取った箱のまま放置して忘れているようなら開梱してもらうべく、電話をかけた。
「今何してましたか?」
「ソファに寝っ転がってテレビ見てた~」
え?
「テレビ?テレビ映るようになったの?壊れてないの!?」
「え?壊れてないよ、映るよ」
あまりの暇さに、父がイマジナリーテレビを生み出したのかと思ったが、見ている内容を聞いたところ、確かにその時間放送されている番組内容と一致した。
世界の亀山復活。ただしやはりBSのみ。
そういえば、地上波は真っ暗な画面にエラーメッセージが出ていたけれど、今回父は「砂嵐が出る」と言っていた気がする。 そもそも瀕死なのだろうが、どうもここ最近天候不良だったのが、直接の原因のように思う。
なんにせよ、ひとまず良かったーーー!!
戻ってきてくれてありがとうテレビ!!!
あとは、頼むから雪解けまでそこにいて!!!ほんと頼む!!!!
ちなみに、送った書籍雑誌については、荷物を実家に送った時の恒例行事
「今日お父さんに荷物が届いてるんだけどね」
「荷物なんて届いてないよ」
「うん、配送業者さんから届けましたよって連絡来たから届いているんだけどね、玄関と階段と脱衣所(父の「なんかわからんもの置き場」ゴールデンゾーン)に置いてないか見てくれる?」
問答を複数回繰り返し、無事開梱を確認、本大好き父は大いに喜んでくれた。
次回帰省時には、父にも簡単に使えそうなラジオを置いてこようか検討している。