認知症一人暮らし終了の父と遠距離介護の私

頑張りすぎない、周りのプロに頼る、自分を大切に、を忘れないようにしながら認知症一人暮らし父(要介護2)を遠距離介護中です。父のことは好きだけれど、時々背負い投げしたい時もある。でもやっぱり好き!後で読み返して笑うために書き溜めています。

無限問答「今日は何日何曜日?」

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「ところで、今日は何日の何曜日さ?」

父は、認知症になってから「日付曜日を娘に尋ねる」という無限スキルを手に入れた。
無限スキルの発動頻度は、年を追うごとに加速している。
答えた直後に、間髪を入れず全く同じ口調で「ところで…」と再び問うこともままあり、一回のスキル発動におけるループ回数は、その時の父次第だ。

普段は遠距離のため、この無限スキルに付き合うのは毎朝の電話やアレクサでのビデオ通話の時位だが、帰省中は二人きりの空間で、それこそ夜となく昼となくがっぷり四つで向き合うことになる。
せいぜい一週間程度の限られた期間内であったとしても、一日中続くと心象風景的にはもう賽の河原、地味に結構な負担だ。

加えて問題となっているのが、私自身この質問にすぐ答えられないことである。
いつ何時でも正しい日付曜日が分かっていれば、父のスキル発動時に機械的に即レスもできようが、「えーっと…ね…水曜日なんだけど、日曜が〇日だったからえーっと…?」と、こちらもこちらで大変おぼつかない。
曜日は分かるのだが、己の日付感覚がざっくりしすぎていて、とっさに分からないのだ。日付を意識していなさすぎて、部屋に置いてあるカレンダーが1・2月分のままだったことに、3月末日に気づく有様だ。
2ヶ月表示のカレンダーにしておいて良かった。3・4月分の絵も、残り1ヶ月は楽しむことができる。

あっちがよぼよぼなら、こっちはよれよれ。私も、父のことを言えた義理ではない。
という訳で、ついに我が家にも設置したのである。
以前ツイッターのフォロワーさんに教えていただき、また他の方の介護ブログなどでも「これは便利!」と好評の、デジタル日めくり。
標準電波を受信して、自動で誤差修正してくれるというありがたい機能付き。
置き型、壁掛け、両用タイプ。気温や湿度、天気まで分かるもの。
ネットで調べると色々な種類が出てきたが、父に必要なのは、「今日が何月何日何曜日か」がすぐ分かることなので、極力それ以外の情報が表示されないシンプルなものを探し、上半分に時間と日付、下半分に曜日がこれ以上ない程大きく表示されたタイプを購入した。

この日めくり、本当に曜日表示の大きさが尋常ではない。
「〇曜日は生ゴミの日」、「〇曜日はヘルパーさんが料理を作ってくれる日」と、日付よりも曜日で今日の出来事を認識していることの方が多い父に対し、「ワタクシをご覧いただければ!瞬時に!!」という気概をビシビシ感じ、見るからに頼もしい。
いける、これはいけるぞ!

購入したものの、実家でいざ開封したら思っていたのと違う…となると困るので、一旦私の家で実際に大きさや使用感を確かめた上で、実家に持ち込んだ。
私の家でも実家でも、日めくり持ってあっちうろうろこっちうろうろ、窓際にしばらく置いておいても初回の電波受信がにっちもさっちもうまくいかなかったが、手動でも設定できるのでそこはまあ構わない。

早速、電話台の上の壁掛けカレンダーの横に設置。
縦235mm横133mmの素晴らしい存在感。圧倒的に無視できない大きさだ。
その下半分が曜日。本当に、やけくそのように曜日がでかい。
設置した後、電話台の対面の壁側に置いてある一人掛けソファで読書している父のところまで移動し、文字の大きさや見え方を確認、光の反射や角度による表示の見にくさなどもないことを確かめ、ついに父に披露した。

「お父さん、お父さん」
「ん?なに?」
「カレンダーの右横をご覧ください!」
「カレンダー…そういや今日何日の何曜日さ?」
きました!待ってました!ハイ!!
「お父さん、そこでカレンダーの右をご覧ください。今日が何日何曜日かすぐに分かります!」
「んー……おお、14日、日曜日。どしたのこれ?」
「お父さんへのプレゼントです!どう?便利じゃないこれ?私もよく日付分からなくなるから、いいなぁと思って」
「おお、いいなぁ」

よしよし好感触。
父の視界でも問題なく見えているようで一安心し、しばし歓談。
「ところで、今日は何曜日さ?」
「お父さん、カレンダーの右をご覧ください!」
「おお、なにこれ?」
再び説明アンドきゃっきゃきゃっきゃ。
「ところで、今日は何日の何曜日さ?」
「お父さん、あちらを!」デジタル日めくりを指さす私。
「…14日、日…おお~あれどしたのさ?」
またまた説明アンドうふふうふふ。

日付曜日を聞きたい父と、新グッズをお披露目したい私の、幸せ無限ループ。
さながら、お花畑で手と手を取り合いくるくる回る恋人たちのごとく、何日何曜日問答を延々繰り返す二人。
良かった、この方法はうまくいきそうだ。私は勝利を確信した。

そして、勝利確信から一夜明けた3月15日、月曜日。
繰り返される、父「何日何曜日」、私「お父さん、あちらを!」
「3月15日、月曜日…おお~これいいなぁ」
「でしょ~!便利だよね!」
にこにこうふふ。いやぁ今日も平和だわぁ。
「ところで、あれに出てる3月15日の月曜日ってなにさ?何がある日?」

「……んっ?」

おっとっとそうきたか。
父、今度はデジタル日めくりに表示されている日付曜日が、何を指しているのかわからないというのである。
何かのイベントがある日が、予め表示されていると思ったようだ。
ここにきて、まさかの無限スキルレベルアップ。父の手札は多彩すぎて、本当に驚かされるばかりだ。
あれには今日の日付と曜日が出るんだよと説明しつつ、私は即行紙にサインペンで「今日は」と大書し、デジタル日めくりの上部に貼り付けた。

認知症の父への対応は、いつもいつも手探りだ。今日成功したことが、明日も成功するとは限らない。
去年は、電話以外の連絡手段としてアレクサを導入し、今回はデジタル日めくり。
アレクサをアレクサだと認識できない父のため、アレクサにはでかでかと「アレクサ」と書いた紙が貼ってあるし、今回の日めくりにもでかでかと「今日は」の紙。
デジタルツールを取り入れつつもアナログ全開の我が家だが、頼れるツールがどんどん増えているこの状況は、遠距離介護の身としては本当に有難い。

次回帰省時には、夏場どれだけ暑かろうと「面倒くさい」とエアコンを使わない父のため、スマートリモコンで動かせるように設定したいと、ひそかに企んでいる。
知らぬ間に勝手にオンオフされるエアコンに恐怖した父が、コードを引っこ抜く未来が既に見えている気もビンビンするが、帰省するまでにうまい方法を考えたい。