認知症一人暮らし終了の父と遠距離介護の私

頑張りすぎない、周りのプロに頼る、自分を大切に、を忘れないようにしながら認知症一人暮らし父(要介護2)を遠距離介護中です。父のことは好きだけれど、時々背負い投げしたい時もある。でもやっぱり好き!後で読み返して笑うために書き溜めています。

復活のテレビアンテナ

「テレビ映んないんだわ」
だから、ソファに寝っ転がって一日中雑誌を読んでいるのだと、電話口で父は朗らかに言った。

昨年の冬から春にかけての間に、我が家のテレビアンテナはボッキリ折れた。
12月に帰省した際、テレビはBSだけが生きていて、地上波は「受信感度が低い」かなにかで映らない状態だった。
その時はまだアンテナは折れてはおらず、家電量販店に一度見てみて欲しいと依頼をしたが、「雪あるから無理」と断られ、12月中の対応はできなかった。

その話をケアマネさんにしたところ、業者に直接電話する方が良いかもとアドバイスいただき、3月の帰省時に修理してもらうべくネットで地元の家電店や工事業者を調べたのだが、電話しては閉店、電話しては廃業……。
郊外にできた家電量販店の威力をひしひし感じながら心も折れかけていたところ、何件目かの電話で「うちはもう辞めちゃったけど」と、他の業者さんを教えていただき、様子を見に来てもらえることになった。

その後の父との電話の中で、なんだかBSすら映らなくなっているような雰囲気を感じつつ、3月に帰省した際アンテナを確認したところ、これ以上ないほど清々しく折れて壁にぶら下がっていた。
こりゃ映らんわ。これで映ったら、アンテナとはだわ。

まだまだ雪が残る3月、ぐるりと雪に包囲された家の壁に、ぐんにゃりぶら下がるアンテナ。
父に工事の対応はできないので、私が実家にいる間に済ませたいことは伝えていたが、そもそも、3月は引越シーズンでアンテナ工事業者さん的にも繁忙期だそうだ。地元が田舎過ぎて、引越について全く失念していた。
状況によっては、期間内には工事できないかもしれないと前置きされていたが、最終的には帰省中の1週間の内に、下見、見積もり、工事と、全てしてくださった。
「いやー、お年寄りから「テレビ映んないんだわ」っていうのが1番多いのさ。お年寄りの家でテレビ映んないと困るもね。」と、忙しい中急な工事をねじ込んでくださった業者さんには、感謝しかない。

そんな訳で、我が家のテレビは復活した。

筈だった。

ところが5月上旬、2ヶ月足らずで冒頭のそれである。

「テレビが映らない」というのは、電源は入るが画面が映らずエラー表示がされるのか、砂嵐なのか、電源自体がつかないのか。
地上波もBSも映らないのか。
普段は主電源を切らずリモコンで操作していたので、リモコンの電池は切れていないか、主電源を切っていないか、そもそも、何かあったらすぐ抜いてしまう電源コードはちゃんとささっているのか。

言い方を変え質問内容を変え、何度も何度も確認したが、毎度父の回答はおぼつかず、父の認識で言うところの「テレビが映らない」状態であることしか分からない。
どうやら、リモコンではなく主電源をオンオフしているがつかないということらしいが、それも結局確かではなく、実際の状況は分からない。

相手が主張する不具合について、具体的な情報がないまま対応しなければならない時ほど、もどかしいことはない。
正確な状況把握ができないと、有効な手段も見つけられないのだが、「なんか変」としか分からない相手の話を聞き取り、断片的な情報から現状を想像し、解決策を提案するまでの道のりの長さたるや半端ない。
その道のプロならともかく、そもそも実家のテレビについての記憶がおぼろげすぎる私では、ろくな対応もできない。

脳裏にふと蘇る、3月の修理の記憶。
ひとつだけ懸念事項があった。
アンテナの設置可能箇所が限られている我が家、業者さんが「大丈夫だとは思うけど、この設置場所だと雪でまた折れる可能性はあるかも」と言っていたのだ。

まさかまたボッキリいった?
決してお安くない万円かかったのに?
とにもかくにも、対処しようにも状況が分からないので、ヘルパーさんにお願いして、訪問の日にテレビの状態を教えていただくことにした。
最悪、再び諭吉くん達が景気良く飛んでいくかもしれぬ。諭吉くんって、飛んでく時ほんと景気良く飛び立つよねぇ。来る時は、めちゃくちゃもったいぶるのにねぇ。

そして迎えた、ヘルパーさんご訪問日。
結論から言って、テレビは壊れておらず、諭吉くん二度目の飛翔は免れた。

どうやら父は、テレビ本体の側面に並ぶ主電源やその他のボタンの内、主電源ではないボタンを一生懸命押していたらしい。
そら、つかんわな。
盲点過ぎた。そんなの全く思いつかなかった。

「テレビ無事でしたよ~コードもささってます!」というヘルパーさんからの電話の向こうで、「映ってるわ~」と嬉しそうな父の声が聞こえ、実情が分かるまでの数日間緊張し続けていた私は、安心とともに脱力した。

本当に、本当に、ヘルパーさんにも、ケアマネさんにも、日々お世話になりまくっている。
介護従事者さんの仕事柄、こちらも言葉と態度でしか感謝をお伝えできないが、認知症の父が実家で一人暮らしをしていられるのは、何から何までケアマネさんとヘルパーさんのお陰なので、本当に感謝している。

感謝の気持ちで北に向かって拝んだ約10日後、実家の電話が繋がらなくなった。
電話のコードと一緒に同じタコ足に繋いでいたルーターもオフになっており、アレクサも沈黙。

……抜いたな、コード………………

本当に申し訳ない…再び北に向かってお詫びしながら、ケアマネさんに電話をかけた。

次回帰省時には、コンセントとタコ足にカバーをつけよう。
私は心に強く誓った。