認知症一人暮らし終了の父と遠距離介護の私

頑張りすぎない、周りのプロに頼る、自分を大切に、を忘れないようにしながら認知症一人暮らし父(要介護2)を遠距離介護中です。父のことは好きだけれど、時々背負い投げしたい時もある。でもやっぱり好き!後で読み返して笑うために書き溜めています。

回転寿司と千手観音

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千手観音になりたい。
父と回転寿司屋へ行く度に思う。

寿司好きの父は、私が帰省するといつも回転寿司ディナーを所望する。
近所には、タッチパネルで注文するタイプの店と、紙に書いて手渡すタイプの店とがある。
父は、寿司は好きだがネタにこだわりはなく、「何食べたい?」「何でもいい、適当に頼んで」と丸投げしてくるので、注文は全て私が担当だ。

食事ペースが早く、寿司に限らず待たされるのが嫌いな父の元に、切れ間なく寿司が届くように注文しつつ、合間に自分も食べるというのは、なかなかに難しい。
立ち回り的には、会社の飲み会に近い。
しかし、支払いは父持ちなので、会社の飲み会のように「ろくに食えんメシに給料半日分の金払わされた挙げ句無賃残業させられてるんですけどナニコレ」感はない。
本当に、会社の飲み会の存在意義が分からない。気持ちいい位金ドブだが、昨今の情勢でぱったりなくなった。これについては、素直に大変喜ばしい。

タッチパネル店には10貫程がひと皿に乗ったセットがあり、ひとまずそれを頼んでおけば、次の注文まで時間を稼げる。また、タッチパネルでの発注はすこぶる楽。
しかしそこは人気店で日時によっては大変行列するため、今回は紙注文店に赴いた。

着席。
カウンターに通されたため、あまり皿を置くスペースがない。発注ペースをざっと段取る。
父にお茶とガリの用意をお願いしている間に、1回での注文上限である3皿(全て父用定番ネタ)を記載して発注。
ガリが大好きな父、初回分が届くまではガリとお茶でご機嫌。
私、店内に貼り出された「本日のおすすめ」も見つつ、2回目注文3皿分を記載(1皿は自分用)。
初回分到着と同時に、2回目分手渡し。

父、久し振りのお寿司にご満悦。
私、ガリとお茶をがぶ飲みしつつ父に寿司ネタの希望を聞くも、いつもの「何でもいい」。
2回目寿司着、3回目として父2皿と自分用蟹汁を発注。
ここで店が混み始め、提供に時間を要しだす。
父、回転寿司なのにレーンに寿司が回っていないに気づき、店員さんに「どうして寿司が回ってないの?」と質問。「予め握ったのを回すのではなくて、注文もらって出してるんですよ~」と教えてもらう。

蟹汁着。4回目(父1、私2)を渡す。
焦れる父に自分用蟹汁を薦めるが、いらないと拒否。

私、まだ最初の1皿手つかず。そしてこの蟹汁が、大変な番狂わせだった。
華奢な足が申し訳程度に沈んでいる位かと思っていたら、甲羅も立派な足も山盛り入っており、ハサミと蟹スプーン付属。これで240円(確か)。価格破壊も甚だしい。
自分用1皿目の寿司を残したまま、ひたすら蟹の身をほぐす。焦りながら、空腹は引き続きガリとお茶で凌ぐ。
ほぐす合間に寿司をつまめば良いのかもしれないが、できれば寿司は蟹汁と味わいたい。そんな気持ちとガリ&お茶で、心と胃袋がいっぱいになっていく。

3回目発注分が来ない父、自分の席のレーンには寿司が来ないが、向かいのレーンにはどんどん寿司が来ていることが気になり、「何で寿司回っていないの」と、かなり大きな独り言。
奥で握られた寿司を、店内の店員さんに向けて流すのに向かいのレーンを使用しているからなのだが、父には分からない。「今握ってくれてるから、もう少し待って」と、せっせと蟹をほぐしながら声がけ。

数分後、再び「何で寿司が回ってないの、向こうには来てるのに」と店員さんに質問する父。「もうすぐ来るから待って」と声がけ。
父は先程の質問を忘れているだけなのだが、「このお客さんめっちゃ焦れてる」と思った店員さん、奥に「急ぎで!」とわざわざ伝えてくださる。

3回目着。吸い込むように食べる父、その横でまだ蟹の身ほぐしている私、どんどん冷める蟹汁。放っておかれる己の寿司。
即座に食べ終わり、また寿司の流れないレーンを気にしだす父、「ここのお店、回転寿司なのに寿司が回ってないね」と、声量大きめに発言。
私と店員さんに緊張が走る。違うんです店員さん、大丈夫なんで!ほんと大丈夫なんで焦らず順番に握っていただいて!!

気をそらせるため、ダメ元で「お父さん、この紙に食べたいお寿司書いて」と、紙とメニューを渡してみることにした。
拒否される前提だったが、どっこい素直にメニューを眺め、いそいそ記入する父。
できるじゃん!
いつも「何でも良いから頼んで」と言われるので、父に注文はできないと決めつけていた。
今まで、できることを勝手に潰してしまっていたのだなと反省しながら、どうしても殻から外れない蟹の身を必死になってほじくる。蟹を前にして、「この程度で良いか」はない。というかもう、止め時が分からない。

4回目着。父、5度目の発注を自ら行う。
寿司どころではない私、届いた自分用2皿の1貫ずつを父に提供。
ここでやっと、蟹の身との格闘に終止符。
達成感とともに冷めた蟹汁をすする。
めちゃくちゃうまい。冷めてるけど。蟹の身たっぷりで、小ネギがしゃきしゃきでうまい。多分、冷めてなかったらもっと最高にうまい。
次来た時も頼もう。反省は活かされない。
満足しながら、ようやく寿司を口に運びつつ、6度目として自分用に1皿と茶碗蒸しを発注。

5度目、6度目着。父発注の1皿は品切れで2皿となる。
もぐもぐしている父に腹具合を尋ねると、「そろそろもういいな、あと2皿位頼んで」とのことで、ラスト注文。

発注作業終了。
あとは父の最後の寿司が提供され、食べ終わるまでの間に、自分の分を全て平らげるだけだ。
急いで茶碗蒸しの蓋を開け、さじですっすすっす掬っては食べる。
私は、ここの茶碗蒸しのファンだ。銀杏ではなく栗の甘露煮が入った、北海道の味。
ほんのりあたたかい甘さに人心地がつく。もう大好き、ここの茶碗蒸し。

ラスト分着。父のお茶をつぎ足す。
父、最後の寿司も綺麗に平らげ、「おいしかったわ。お前がいないと寿司も食べに行けないしょ」と至極満足。
ほぼ同時に私も食べ終え、お茶で口をさっぱりさせる。
「支払いはこれでしなさい」と財布を預かり、会計。
「お父さんごちそうさまです。有難う!おいしかったね~」「何を言う何を言う、お前がいないと来られないもね」と、父娘でにこにこ退店ありがと~ございました!

本日の任務、「父との回転寿司ディナー」コンプリートである。

私としては、父との回転寿司は落ち着いていられないので、寿司食べに来たんだか注文しに来たんだか正直分からない。
しかし、お腹いっぱいの父が本当に嬉しそうなので、別に構わない。
構わないのだが、やはり腕2本ではあまりに忙しないので、千手観音になりたい。
いや、千でなくとも、脇から左右あと二本ずつ、百手観音位でもいい。

しかし、今日は良い発見があった。
次回この店に来る時は、是非父に自ら注文してもらおう。一緒にメニューを覗きながら、あれもおいしそうこれもおいしそうと各々注文用紙に書き入れるのは、きっと楽しい時間になる。
新たな希望を胸に、私は車を発進させた。