認知症一人暮らし終了の父と遠距離介護の私

頑張りすぎない、周りのプロに頼る、自分を大切に、を忘れないようにしながら認知症一人暮らし父(要介護2)を遠距離介護中です。父のことは好きだけれど、時々背負い投げしたい時もある。でもやっぱり好き!後で読み返して笑うために書き溜めています。

これはハンカチですか? はい、ハンカチです。

父と外出する際に、着替えや鞄、持ち物確認などの準備を、私は手伝わないことにしている。

認知症の父は、「鞄必要か?」「財布持ったか?」「保険証どこだ?」、「ハンカチ持ったか?」「財布あるか?」「鍵持ったか?」、「ハンカチどこだ?」「鞄提げてくか?」「財布にお金入ってるか?」等々、自分が納得するまで同じことを繰り返す。
当然時間はかかるのだが、父との外出で「何時までに行かないと!」という用件があまりないので、出発が遅くなろうと構わないし、何より、父の外出準備ルーティンを崩したくないのが、一番の理由だ。

父が今できていることを、私が先回りしてしまうことでやり方がわからなくなり、できなくなるというのは避けたい。
今父ができていることを、可能な限り継続していく為にサポートするのが、私の役目だと思っている。

なので、どれだけ時間がかかっても、同じ確認を何度繰り返しても、私は横で、
「財布どこだ?」
「どこだろ、探してみよっか」
「ハンカチ持ったか?」
「どうだろ、ポッケ触ってみたら?」
と、一緒に付き合う。
タンスの同じ引き出しを何度も開けては、ないなぁないなぁと手でかき回し続け、ああーっあと10センチ左を探せばお目当てのものがあるのですが父よー!惜しいー!となっている時には、そっと「も少し左側も探してみると良いかも~」と、伝えることもある。
「あったわ~」と満足げな父が可愛らしく、「やったね~」と微笑み返す。

父は、昔からとてもきちんとした人だ。
外出時には、綺麗な服に着替え、ズボンには(例えジャージでも)しっかりベルトを締め、必ず綺麗なハンカチをポケットに入れていく。
そのハンカチなのだが、一度使うと当然洗う。そして、洗った後彼らはどこかに消えていく。
私が帰省する度に、タンスの引き出しに仕舞ってあるハンカチが減っているのだ。

家主に選ばれた奴は、二度と戻ってこられない。
普段暗がりでひっそり身を寄せ合い暮らしている彼らを、突然地を揺らし天を割り奪っていく恐怖の手。ハンカチたちにしてみれば、たまったものではないだろう。
恐らく、洗った後父の手によりどこか別の場所に収納されているのだろうとは思うが、今のところ探し出せていない。
いかんせん、我が家は小物を仕舞う場所に溢れており、父は、こちらの予想を超えた場所にものを仕舞うのが得意だ。
行方知れずのハンカチが、いつか「ここなの!?」というところからごっそり出てくる予感はしているが、その日はまだ来る気配がない。

引き出しを開け、ガーゼのハンカチを「これはなんか違うなぁ」、ウン十年前からずっとそこにあったのではとおぼしき温泉旅館のタオルも「違うなぁ」と、お気に召す一枚をあれやこれやと物色していた父から、ついに出発オーケーの合図が出た。
「よし、ハンカチも持った、いいぞー」

準備万端の父が選んだ一枚は、大きめサイズで白地に赤いチェック柄の、柔らかい生地の未使用品。
用途的な分類をするならば、いわゆる台拭きに分けられるものだっだ。

一応、他に「ハンカチ」に分類されるものがないか確かめてみたが、台拭き、タオル、ガーゼのハンカチ(父的にアウト)以外、適当なものは見当たらない。
まぁいいか、吸水性に優れているハンディサイズの布という点では変わらないし、未使用品だし。

さて、出発である。
「あれ、財布持ったか?」

前進一旦止め!出発準備もうワンターン!
私はまた、鞄の中身を一つ一つ取り出して確認する父を、横でのんびり見守ることにした。