認知症一人暮らし終了の父と遠距離介護の私

頑張りすぎない、周りのプロに頼る、自分を大切に、を忘れないようにしながら認知症一人暮らし父(要介護2)を遠距離介護中です。父のことは好きだけれど、時々背負い投げしたい時もある。でもやっぱり好き!後で読み返して笑うために書き溜めています。

父はエゾリス

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「冷蔵庫から発見されました」

ついにきた。
独身の時は恐らく祖母、結婚後は母が家計管理をしていたため、父には資産管理の経験が(ほぼ)ない。
生活費以外の部分では毎月お小遣い制で決まった金額を母から受け取っていた父は、一人で生活している今、自ら窓口やATMで現金を下ろすこともできない。
そのため、私が帰省する度に、いつもまとまった現金を所定の場所に置いている。
その場所も父は忘れてしまうけれど、今までは「うちにお金いくらある?」「〇〇に置いてあるよ、探してみてくれる?」で、自分で探す→見つける→安心して所定の場所に戻すができていた。
そのサイクルが、ついに壊れたのである。

最近父は、頻繁に「お金がない」と言うようになってきた。
その度にいつもの場所を探してもらっていたのだが、先日、その所定の場所には数万円しかないと言う。
父の生活にかかる費用の殆どは口座からの直接引落で、現金は通院、食料品と日用品の購入時位にしか使わない。
そして、現金はいつも、私がいない間父が困ることのない金額をセットしている。

前回の帰省から2ヶ月で残額数万円は、明らかにおかしい。
私の把握している限りで、父は一度、下水道の工事業者を名乗る人間からの詐欺被害に遭っている。
また知らぬ間に詐欺に遭っている可能性も否めない。
ケアマネさんに相談したところ、通院の付き添いやヘルパーさんにお願いしている食品の買い出しなどの時に、やはり「お金がない」となり、最近は食器棚や電話台などあらゆる所を開けては閉めている状態であることが分かった。
そしてとうとう、冷蔵庫からお札が発見されたという。

はいきた定番の!冷蔵庫!
食品の貯蔵が主たる用途だが、なぜだか貴重品を入れがちな便利ボックス。
ついに我が父も、その便利さに気づいてしまったようだ。

大事なものだから大切にしまい込んだのに、肝心のその場所が分からない。
その姿は、私に冬に入る前のエゾリスを思わせた。
ちなみに、リスが種子などを貯蔵することを貯食行動と言うらしい。ほほう。
ドングリを土に埋めるのであれば、いずれ芽が出て場所も分かろうが、しかしながらエゾリス父が冷蔵庫内に埋め込んだお札は、芽吹くことなくただ静かに冷えるばかりだ。

さてどうしたものか。
頻繁に帰省できない距離のため、どうしても数ヶ月分の現金を家に置いておく必要がある。しかしながら、現金書留で送ったところで封筒ごと紛失する未来が見える。
現金がないと、父の日常的な生活が立ちゆかなくなる。

ケアマネさんと相談し、今までは父から直接ヘルパーさんに買い出し費用を手渡ししていたのを、今後は父の手の触れないところに費用を保管し、私とヘルパーさんとの間で入出金やりとりをすることにした。
その上で、「お父様の気持ちを尊重することも大切なので、今までの場所にもある程度お金を置いた方が良いですよ」と、ケアマネさんにアドバイスいただき、最悪紛失しても致し方なしと思える金額を、引き続き今までの場所に保管することにした。
何についても「スムーズに進むこと」を大切にしすぎるあまり、融通が利かなくなることがある私にとって、このアドバイスは大変ありがたかった。
「父が生活に困らないように」にばかり目がいき、「お金がないことに対する父の不安な気持ち」にまで気が回らなかった。
私のガチガチな視界をふわりと広げてくれる存在は、本当にありがたい。

次回帰省時に、早速買い出し費用保管場所を作ろう。そして、エゾリス父が貯蔵したお札の大捜索もしなければ。
父の手の及ばないところはどこかしらと考えている私に、新たにケアマネさんから電話があった。

「先日、炊飯器から小銭が出てきました。」

思わず、「炊いたごはんの中に…?」と聞いてしまったが、さすがに釜は空だったようだ。
その内洗濯機からも出てくるかもしれない。その時はラッキーコインとして、お守りにでもしようかな。

エゾリス父との攻防は、これからも続くようだ。